はじめに、ご注意。
残虐と思える表現があります。
性的な描写はありません。
ご自身の判断でお読みください。

namida

by zirou




暗闇の中で
ベジータの記憶のなかにいる顔のない少女。
こちらを見つめてたっている小さな影。
ベジータはその少女を知っている。
しかし・・・。
いったい誰なのか・・・・?
ベジータは手のひらにねっとり汗をかく。

これは夢だ。

わかっている。
しかし、この場所からぬけられない。
あれは…いったい誰なのか。








空が青い。
青すぎる。
ベジータは、眉をしかめる。
どこかで小鳥のさえずる声がする。
水の流れる音がする。
こののどかさがベジータを苛立たせる。
ベジータは宙を飛び続ける。
逃げるように。
しかし、いったいどこへ???

ベジータの身体の内側から湧き上がる黒い感情。
どろどろと湧き上がる、この気持ち。
自分にも理解できない、ベジータの中の何か。
ベジータは、その得体の知れない力を振り切ろうとでもするように
今日も飛び続ける。

ナメック星で一度死んだベジータだった。
しかし。
ドラゴンボールが彼を再び生き返らせた。
そして彼は地球という星にいま暮らしている。
ただ、暮らしている・・・。
地球にきた当初は彼には野望があった。
カカロットを殺しこのちんけな星を踏みにじってやろうという。
そうだ。
はじめはブルマを利用するつもりだった。
この星一の財閥の娘。
優れた科学者であるブルマとブリーフ。
十分な食糧。
そして、眠る場所の確保。
その女を
利用するべきことはいくらでもあった。

・・・超サイヤ人になったカカロットを見たい。
そして奴を倒す。
そして、この星のドラゴンボールを手に入れるか・・?
それとも、宇宙船を作らせて、このくさった星を脱出するか。
徹底的に破壊したあと。

・・・しかしこの平和な暮らしにベジータの調子は狂い始める。
当たり前の朝がきて、当たり前に日が暮れる。
寝ている間に命を失うこともない。
食べるものがなくて苦しむこともない。
毎日血だらけになる必要がない。









neo

傷つき傷つけ、相手を殺す。
頭から足の先まで、血の匂いがする。
それがベジータの日常だった。
でもここではそんな暮らしが存在しない。
ベジータは思うのだ。

・・・・俺がおかしいのか?
俺の生き方を否定するのか!

山のような瓦礫。
散らばる死体。
踏みしめてあるく。
足元のあの感じ。
燃える街。

ベジータ達は、フリーザが目をつけた星にどんどん攻め込んでいく。
一気にたたく。
破壊させる。
湧き上がる昂揚感。
身体がぞくぞく震える。
この世界は強いものが勝つ。
弱ければ・・・・・死。
ただそれだけのことだった。
それは、ベジータだって同じことだ。
足元に絡みつく、血だまり。
粘った感触。
それはベジータを興奮させる。

・・・俺はこうして生きてきた。
これからもそうだ。

地球の日差しはあまりにも明るく柔らかい。
ベジータは右手で自分の胸を抑える。
眉をしかめ、口びるを少しゆがませて、彼はさらに飛び続ける・・。
どこまでも。






日が傾きかけて、ベジータは立ち上がる。
北の高地にある岩山。
ただ土色が広がるだけの乾いた場所。
ベジータは何をするのでもなくそこにいたのだ。
夕日がベジータの影を長く伸ばす。
その影の先に、ブルマがいた。

ただたっている。
ベジータはそのままで動かない。
歩み寄ったのはブルマのほうだった。

静かにベジータの背中に手を伸ばそうとする。
いつかベジータが倒れていたこの荒地。
なぜ、彼は何時もここに来るのか?
そしてブルマもどうしてここにいるのか?

・・・・愛じゃない。
ベジータなんか大嫌いだ。
嫌い。

なのにベジータの姿が消えると後を追う。
どうしてなのだろう。
ブルマは娘じゃない。
女だ。
なのにベジータを追ってこんなところに来る。

・・・あたしは何を期待しているんだろう。

ベジータがブルマの気に気づかないはずがない。
なのにベジータも動かない。
どこにも行かない。
ブルマとベジータの間はおよそ2メートルもないのに・・・。
この距離が・・・遠い。

あの時はじめてベジータはあたしの手をとった。

今でも胸が高鳴る。
ベジータの手。
手袋を脱いだ手は以外に白かった。
そして、柔らかかった。
つめは大きくて、指が長かった。
いかにも生まれのよさそうな手のひら。
・・だけど気持ちの伝わらない手のひら。
その手があたしの手をとった。
それだけであたしは全身の力が抜けた。
ベジータに抱き上げられたときはもう、体中が熱くなった。
こんな気持ち初めてだった。
あたしは全身の力を抜いてベジータの腕の中にいた。
・・しびれた。

だけどそれだけだった。
あれからまたベジータは元のベジータに戻った。
時々ふらりと戻ってくる。
誰に会うでもなくまた出て行く。
しゃべらない。
笑うことなどない。

・・・なぜなの?

ただ一つ変わったこと。
ベジータはここに来る。
この場所に。
あの時ベジータが倒れていた、この荒地に。








ヤムチャは自分の部屋にいた。
出かける気にならない。
だからといってブルマと行動をともにするのも嫌だった。
ベッドに横たわる。
ブルマの匂いがする。
甘い匂い。
もう何年もともに暮らした匂い。
ブルマはたしかに俺のものだ。
いろいろあっても夜にはこのベッドで過ごす。
それで分かり合えるはずだった。

なのに・・・。

ブルマの髪が落ちている。
ぬけるような鮮やかな色の青い髪。
ヤムチャはその髪をじっと見つめる。
昨夜のブルマのぬくもりをまだ感じる・・・。

なのに・・・。

ヤムチャは感じている。
不安を。
もう疑いようがなかった。
迷い、恐れる自分の心に。
目をそらすことが出来なかった。

何時までもこのままではいられない。

ヤムチャは盗賊だ。
だが誰が好き好んで盗賊などするだろう。
両親がそろっていれば・・・。
普通の家庭に育っていれば・・・。
ヤムチャだって、普通の青年だったに違いない。
幼いころの思い出。
それがヤムチャに影を作る。

・・・俺はやっぱりここにいちゃいけないのか。

暮らしが違いすぎる。
育ちも。
ブリーフ博士はヤムチャに何の偏見もない。
ブルマのママも。
まるでヤムチャを自分に子のように扱ってくれる。
ヤムチャはここで家庭の暮らしを体験した。
幸せだった、ほんとうに・・。
若いころ、女性のまえで緊張するあの経験は、
自分の生き方に対するコンプレックスではなかったかと思った。
ブルマの家庭に溶け込んでヤムチャは幸せだった。
しかし、何時までもこのままでいいはずがない。
ヤムチャは、ヤムチャだ。
いつかここから独立しなければいけないと思った。
しかし。

・・・ブルマはついてくるのか、俺に・・?
この生活を捨てて?
俺と二人で生きていけるのか???

ここにヤムチャの迷いがあった。
そして、確かめる勇気もなかった。
失うことがつらかった。
暖かい家庭を。
居心地のいい家族を。
仲間を・・・。

ブルマは俺についてくるのか?
それともやはり・・・。

答えの出ない問い。
出したくない問い。
ヤムチャは繰り返す。










harumama
「帰れ」

ベジータが言ったのはこの一言だけ。
振り向きもしなかった。
ブルマは、凍ったようになる。
指先が冷たくなる。

「貴様に用はない・・」
「でも、・・」

言いかけてブルマは息を呑む。
いつのまにか薄暗くなってきた。
ベジータの姿が闇に消えようとしていた。
溶けていく。
闇に中に。

ベジータ・・・。
・・どこに行くの?
たった一人で?

「ベジータ・・」

ブルマは本当に小さい声で言葉をかけた。
そのとき、ベジータがふっと振り向いた。
ベジータの表情が闇の中に浮かび上がる。
白い顔。
黒い瞳。
どこまでも黒くどこまでも深い瞳。
ブルマを見つめる。
さびしい瞳。

「ベジータ・・。」

ブルマが一歩進み出る。
ベジータが、・・動いた。

「あ・・・」

ベジータの白い手袋。
ブルマの両頬をそっとはさむ。

・・ブルマは目をそらさない。

ベジータの手が・・・
熱い。
とっても・・・。

ブルマはあっ・・と息を漏らした。
ベジータは手を離す。
そっと。
ブルマの足が震える。
身体が熱い、とっても。
指先がしびれる。

・・・この手のひらだわ・・・。

戦うときに恐ろしい気を発する、この手のひら。
いくつもの命を奪ったこの手のひら。
しかしいまブルマに触れるこの手のひらに残虐な様子はまったく感じられない。
感じるのは
悲しみと寂しさ。

・・・私には・・わかる。
なぜかうまくいえないけど。
この人は
悪い人じゃない・・・。

はっきりした理由は説明できない。
でもブルマはそう感じた。
ベジータは離した両の手を、ブルマの背中に回す。
ブルマは思わず目を閉じた。

ベジータが、ブルマを抱きしめた・・・。

ベジータの腕に力が入る。
黒っぽい戦闘服の下のたくましい筋肉。
触れる。
感じる。
心臓の音。
響く。
ベジータの息。
熱い。

わかる・・・この人は悪い人じゃない。

ベジータはブルマを抱きしめる。
その柔らかい身体に甘えるように。
その暖かさをむさぼるように。
ただ、抱きしめる。
いつしか、ブルマの手が伸びて、
ベジータはブルマに抱きしめられる。
小さな子供のように。
ブルマの胸に抱きしめられる・・・。
渇いて
渇いて
ヒビだらけのベジータの心。
砂漠のような、
岩山のような、
乾き切った、ベジータの心。
水がしみこむように
ブルマのぬくもりが
流れ込む・・・。


何時しかブルマは
泣いていた。

「泣かせたのか・・・俺が。」

ベジータがつぶやいた。

「悪かった・・・。」

そっと身体を離す。
ふっと現れた。
あの少女。
ベジータの脳裏に顔のない少女。
ベジータは、ブルマの涙を指でぬぐった。



「帰れ・・・ヤムチャのところへ」







その晩もベジータはカプセルコーポレーションには戻らなかった。
ベジータは岩山の陰で野宿をしていた。
なれた生活だった。
夜露がかろうじてしのげるその場所で、ベジータは眠りにつく。

ベジータは夢を見た。
初めて惑星の侵略に参加したあの日。
・・・夢見ていた。
あの小さな星を。

俺はまず偵察のためにあの星に下ろされたんだ…。
偵察という名の試練の為に。

夢の中でベジータはつぶやく。
その星は
小さな星だが美しかった。
青々と草木が茂り黄色い花が咲き乱れていた。
空気が澄んでいて風が光っていた。
そして。
地下資源が豊富だったんだ。
すんでる奴らはおとなしい生き物ばかり。
だから狙われた。
フリーザ軍に。

少女の姿が見える。
白いワンピースの髪の長い少女。
黄色い花束を抱えていた。
不思議といまは顔がある。
人懐こい小さい顔。
7つかそこらの年頃だろう。
ベジータに近づいてくる。
「こんにちは、どこからきたの?」
少女は笑った。

「貴様は俺がこわくないのか?」
ベジータは問うた。
「どうして?」
少女は笑った。

なぜ笑う?
なぜにげないのだ、俺から…?

夢と知りつつベジータは口を開いた。

「貴様は俺が怖くはないのか!?」





場面が変わった。
ベジータは群衆に囲まれていた。

「こいつはフリーザ軍だ!!」
「子供だと思って油断するな!!」
「皆殺しにされる前に殺してしまえ!!」

ベジータに投げられる石ころ。
もちろんベジータに何の影響もない。
しかし少女はベジータの前に立った!!

「ベジータをいじめないで!!」

少女に石の破片がいくつかあたり、少女は血を流した。
石つぶてはやまない。
弱い生き物の抵抗にベジータは嫌悪を覚えた。

弱い物に生きる権利はない。

戦士としてのベジータが目覚めようとしていた。
ベジータは気を高めた。
怒りの爆発。


「やめろ!!」

誰かが叫んだ。
土煙を上げるベジータ。
発する気。
一面の嵐。
叫び声。

「やめて、ベジータ!!
お父さんやお母さんもいるのよ!!」

ベジータに少女の叫び声が聞こえた。
我に帰る。
しかし・・・。
ベジータはおさなかった。
ベジータはまだ気のコントロールが十分出来なかった・・・。











「起きろって!」

ベジータの顔をたたく奴がいる。
カカロットだった。
ベジータは汗だくになっていた。

「・・・なんで貴様がここにいる。」

ベジータは飛び起きた。

「なんでって・・・おめえが呼んだんだ、オラを。」
「ふざけるな・・」
「冗談じゃ、ないぞ。」

カカロットはベジ−タの横に腰を下ろした。

「おめえの心がオラを呼んだ。」

カカロットはベジータの方を見た。
穢れのない透明な瞳。
ベジータの顔が映っている。
ベジータは目をそらした。
夜空に降り注ぐような、星屑。

「オラに話せ。」

ベジータはそっぽを向いた。
聞こえない振りをしている。

「おい・・・。」
「さわるな!」
「ベジ−タァ」

ベジータが立ち上がろうとしたとき。
カカロットも動いた。
両手両足を使ってベジータを仰向けに固定する。

「な・・・!」

無表情なまま、カカロットは、ベジータを見下ろす。
そして、気を発し、ベジータにショックを与えた。
たいした気ではなかったが、突然だった。
ベジータの抵抗が一瞬弱くなった。
そのとき、カカロットの指が伸びる。

「あっ、くそ!!」

ベジータの額にカカロットの指が触れた。
カカロットの顔が
・・曇った・・。



「・・・・・殺したのか・・・」

カカロットが苦しげに言葉を吐いた。

「貴様・・・読んだのか、俺の心を・・・汚いぞ、この野郎・・・」

ベジータも思い出した。
心を読まれた瞬間、その扉は開いたのであった。

初陣でベジータは少女の星を滅ぼした。
少女の顔を飛ばしたのは、他ならぬ、幼いベジータ自身だったのだ。

「読まれて悔しいか、ベジータ。
おめえの考えてることなんかオラにはお見通しだ。
悔しいか。
弱いってのは惨めだな・・・。」
「消えろ!」
「・・・いや・・おめえがあんまり弱いんでな、からかいたくなっちまった。
・・・オラは超サイヤ人になれる。
おめえはどうした。
何時までも弱いままか。」
「調子にのりやがって・・・!!」
「もっと読めたぞ、おめえのことは・・・。
おめえが昔を望むならオラがそうしてやろうか・・。」

カカロットは気を高め、金色に輝きだした。
黒い瞳は青く輝き
獣のようにベジータを見る。
冷たい月の様な輝き。
ベジータは動けなかった。

・・・これが超サイヤ人。

ベジータは、カカロットをまっすぐ見つめた。

その美しさにつばを飲み込んだベジータであった。
超サイヤ人・・・。
正に戦うための姿・・・。
しかしカカロットの様子はいつもと違った。

「ベジータ・・・おめえほんと弱いや。」

鼻で笑う。
ベジータの腹に、カカロットの手刀が入った。

・・いったいなにを・・・。

ずぶ、と中で握る。
そしてまた手のひらを開く。
握る。
ベジータの内部をもてあそぶ。
ベジータは、逃れようとする。
しかしカカロットはそれを許さなかった。
金色の気がベジータを打ちのめす。

「おめえの心を読んだとき、いろいろなことがオラに流れ込んできた。
おめえの望むことも。
されてきたこともだ。
・・・おめえはこれを望むのか?
答えられるのはオラしかいねえぞ。」

「ちが・・う、こんなことを・・・望むわけがない・・」
「ほんとにそうか?」
「くそっ・・」

ベジータは歯をぎしぎしいわせた。
腹からはどくどくと赤黒い血が流れ出る。

「まだコタエねえか・・・たいしたプライドでもないのによ。」

カカロットは薄く笑った。
その目はあくまでも冷たい輝きを放っていた。
白く輝く腕が伸びる。

「なにを・・!!!」

ベジータが叫ぶまもなく、カカロットはベジータの背中に気弾を放つ。
背中から腰が焼け、赤くただれた皮膚が現れた。

「まだ、屈辱が足りねえようだな。
もっと、もっとか・・?
もっとおめえの望むことをやってやろうか?」

カカロットはベジータの衣服をはいだ。
ベジータは蹴飛ばされて地に転がった。
闇に浮かび上がる血まみれの身体。
起き上がろうとするベジータ。
カカロットはそれを許さない。
ベジータの頭をわしづかみにする。
ガン!!
そのまま地面に押し付ける。
持ち上げる。
そのままぶら下げる。
カカロットは笑う。
ベジータの顔を自分の前にぶら下げる。
流れ出る鮮血。

「おめえは子供の時、小さな少女を殺した。
おめえに好意をもっていた少女を・・。
ひでぇやつだ・・・。
認めろ。
それを。
認めて詫びろ。
・・そして、泣け・・・。」

ベジータが泣くわけがない。
しかし、カカロットのつけた頭部の傷から血が流れ、
それが血の涙となって、ベジータの目から流れた。
カカロットは何かに取り付かれたように、ベジータをいたぶる。
殴る。
蹴る。
しかしベジータは逃げなかった。
むしろ積極的にそれを受け入れたように・・・見えた。

「最後までやってやろうか・・?」

カカロットはベジータをうつぶせのまま地面に押し付ける。

「おめえが望んだことだ・・。」

ベジータに一瞬慄きが感じられた。
顔が青ざめる。
身体が固くこわばる。
手足が冷たく冷える。

ベジータの身体が震えていくのをカカロットは感じた。

・・・ベジータ・・・おめえって奴は・・・。

カカロットは超化をといた。

「やめだ・・・」

黒髪のカカロットは、胴着を脱いだ。
自分はパンツ一枚になって、からから笑った。

「危うくマジになるとこだったぜ。」

しかしその目は笑っていなかった。

「ベジ−タァ・・・」

カカロットは、ベジータを抱き起こした。
ベジータは目をそらした。
まだ身体は硬かった。

「悪かったなぁ。」

そんな言葉は、身体の傷よりベジータを深く傷つける。
カカロットは十分それを承知していた。
山吹色の上着を裂き、ベジータの傷を縛った。
はみ出した腸が腹圧で飛び出そうとするからであった。
ベジータはされるままになっていた。

「オラのシャツとズボンはおいとく。
きてけえれ。」

カカロットはベジータの身体を抱きしめた。

「ベジ−タァ・・・」

ベジータの顔を自分のほうに向ける。
光のない瞳。
どこまでも暗く、深い。
その瞳がカカロットの胸を打つ。

なんて目をしているのか・・・。
ベジータ、おめぇ。
知るべきじゃなかったか・・・・・。

カカロットはベジータの心を読んだことを、少しだけ、後悔した。








3日経った。
あれから誰もこなかった。
ベジータは岩陰にいた。
カカロットの胴着はそのままだった。
着る気にならなかった・・・・。
もう動いても腸が出るわけではない。
しかしここを離れる気がしなかった。

・・あれから顔のない少女は現れない。

ベジータは空を見上げた。

・・・あれは現実だった、そして・・・

いまここで生きている自分自身も現実なのだと。
ベジータはそんな当たり前のことにようやく気がついた。
胸が狂しい。
カカロットに対する、ねたみ。
与えられた屈辱。
いろんな感情がベジータの中にあった。

いずれにしても。
奴は俺様が始末する・・・。

それだけは迷いがなかった。

急に胸が熱くなる。
ブルマの気を背中に感じたからだ。
近づいてくる。

乗り物が空から下りてきて、機械音が止まる。
ブルマが降りてきた。
ベジータは背中で感じている。
身体が暖かくなる・・・。

「これ・・・」

ブルマが声をかけた。

「孫君が今朝、うちにきたの。
着替えを持っていって欲しいと。」

腹に山吹色の血染めの布を締め付けただけの裸のベジータの姿に、一瞬ひるんだブルマである。

「それ・・・どうしたの・・・?」
「貴様には関係のないことだ。」

ベジータはそう答えると、ゆっくりブルマの声のするほうを振り向いた。

「その顔・・・どうしたんだ?」

ベジータは思わず声を出した。

「なんでもない。」
「しかし・・」

ベジータは声をつまらせた。
ブルマの頬にたたかれたような赤い跡があった。

「ちょっとね。
大した事じゃないのよ。
あたしだってやられっぱなしじゃないわ・・・。」
「・・・」

ヤムチャなのか?

そう聞こうとして、やめた。

ベジータは服を受け取った。
黙って袖を通す。
ブルマは黙って見つめている。
よく見れば、小さい身体だ。

でもいろんな苦しみをせおっているんだわ・・。
きっと。
かわいそうっていうのは、
好きだ、ということじゃない。
多分違う。
あたしは・・・。

「すまない。」

こざっぱりした洋服に着替えて、ベジータは、こうつぶやいた。
まっすぐブルマのほうを見つめている。
ブルマの青い髪が乱れていた。
近づくべジータ。

・・・ヤムチャの匂いがした。

そっとベジータはブルマのほうに手を伸ばす。
そっと。
ブルマはベジータの手をとって自分の頬にあてがう。

「泣くな・・・。」

ベジータが言った。

「俺なら、お前を泣かしはしない・・・・。」

ブルマが、身体を震わせる。
その身体を、ベジータがしっかり抱きとめた。
何度も、何度も、さするように、ベジータはブルマの身体を抱きしめた。
ブルマはその場に倒れこむように崩れた。

(あたし・・・どうしたらいい?
ヤムチャがいるのに・・・
どうしたらいい?)

ベジータは、ブルマの涙を吸った。
ナメック星の彼からは信じられない優しさであった。
ベジータの唇が、ブルマの皮膚をなぞっていく。
ベジータの息がブルマにかかる。

「ベジータ・・・」

目に涙をいっぱいためて、ブルマはベジータの瞳を覗き込んだ。
ベジータの黒い瞳が、まっすぐ、ブルマを見つめた。

「俺なら、お前を泣かしはしない・・・・。」

ベジータの唇が、ブルマのそれにそっと触れた。
ただそれだけのキス。
ベジータは赤くなっていた。

「俺は・・・・」

言いかけて、ブルマの顔から、ベジータは目をそらした。。

「え、何・・・ベジータ?」
「俺はこの星で生きていく。」



                            この章終わり










怒れ!ベジータに戻る」



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