4 ベジータとブルマ



2005年9月24日加筆



ヤムチャと知り合ったころ。

ドラゴンボール探しのたびをしていたときは
ブルマはまだ少女だった。
女友達と俳優や男の子の話をいっぱいして
雑誌や週刊誌やインターネットで
恋人占いだとか恋愛情報を探していた。
デートスポットや可愛い服や
男の子にすかれるしぐさなど
役に立ちそうなことは全部試した。
恋の話で頭がいっぱいだったあのころ。
素敵な恋人が欲しくて
無謀にも一人旅にでたわけだけど
実はまだキスさえしたことがなかった。

旅の途中でかっこいいヤムチャと知り合い
初めて本物の恋をした。
付き合えるとなって有頂天になり
「手放さないように」家に連れ帰ったのは自分だ。
そして予想もしない恋人の死。
彼を生き返らせるために彼女も戦った。


今の自分はどうだ?


ヤムチャとのセックスなんか
何百回としてるんじゃないか。
彼とは籍は入れていないけれど
もう何年間も一緒に暮らしてきたんだ。
何度も別れては何度も恋を繰り返し
夜けんかをしても朝にはおなじベッドで目覚める。
そんな暮らしをしてきたのだ。

そんな自分がこの年になって
わけのわからない男の手袋を抱いて泣いている。
なんて乙女チックでおかしな姿だろう。

一体ベジータのどこがいいのか。

ヤムチャに比べれば背は低いし
髪型も都会風じゃないし
目つきが悪くて
言葉遣いもえらそうで
若いのか若くないのかわからない
戦闘馬鹿の殺人鬼・・・・・信じたくないがそうなのだ・・
そんな男の
臭いを求めて泣いている。
こんな笑える話があるだろうか。
ヤムチャを殺させた男なのに・・・・。

見境のない女だと自分で思う。

ヤムチャとは別れたが・・・(でも同居してるが)
自分がフリーになったからといって
ベジータに乗り換えるわけにもいかない。
自分はそこまで男に飢えていない。
大体もうセックスなんてうんざりだ。
セックスでお互いをしばりあうことにどれだけ嫌気を感じているか。
ブルマは
ベジータに抱かれたいと思ってはいなかった。
大体自分が彼に好意を持つこと自体
人の道に反すると思ったし
自分がベジータにキスされたり抱かれている姿など
どう転んでも想像が出来なかった。

好きでもないし
抱かれたいわけでもない。
それなのになぜ彼が気になるのか。

それはベジータにしても同じで
彼はときどき気まぐれにブルマに声をかけたりするのだけれど
それは短くて用件だけである。
すなわち

「何か食わせろ。」

彼がブルマを女としてみていないのは間違いない。
今まで何度か二人きりになるときがあっても
彼は彼女の存在を気にするような感じはないのだ。
たぶん冷蔵庫や電子レンジとの見分けもつかないだろう。
重力室を壊したとき以外は。

あの月夜の出来事もほんの気まぐれだったにちがいない、
あの時ときめきを感じた自分も本当の自分だったが
その後のベジータはやはり
取り付く島もない冷たい男だったからだ。

それなのに。
自分はこの汚い手袋を捨てられない。

・・・・馬鹿みたい。




ふと窓の外を見ると
もう夕焼け空が広がっていた。

「一日が終わるのって早いなあ。」

誰に言うでもなくブルマはつぶやく。
遠くの空を眺めてみる。
だけど何の影も浮かんではいなかった。

「どうしたんだろな、あいつ。」

以前この窓からベジータの手に引かれて夜空を飛んだことが
夢のように思える。
月の光の散らばる水面は
本当に奇麗だった・・・。
ブルマはきゅっと手を握る。
ベジータの体の温かさが
突然よみがえったから。

自分の体が
ベジータの匂いを覚えている。

「だからって・・・
どうってことないわ。」

ブルマは自分にそういい聞かせた。


わかっていることだった。
彼は誰かと暮らせない。
いくら部屋を与えても
洋服を買い揃えても
やはりベジータは出て行くのだった。

今回出て行く直前もベジータは重力室を壊して
背中をしこたま傷つけたのだ。
赤黒く変色した体を医者に見せようとしても
拒むベジータは
後頭部から血を流した状態で
ブルマに修理を命じて
北のほうに飛んでいってしまった。

「ちょっと、
ベジータ!
待ちなさいよ!」
「・・・」
「血ぐらいとめていきなさいよ」
「そのうち止まる」
「キャー、床まで真っ赤!」
「しるか。」

血で汚れた服を着替えるでもなく
ぼとぼと血を流してベジータは出て行った。
それから一ヶ月。

内線が鳴って
ブルマは大きく伸びをする。
そして窓を「開けたまま」で
自分の部屋を後にした。



















リビングからはもうすでにとてもいい匂いが流れてきている。
ブルマは入り口で足を止めた。

「あら
はやいのね、
ヤムチャ。」
「ああ」

そこにはにはスーツ姿のヤムチャがいた。
彼は上着を脱ごうとしているところだった。

「おかえり」

彼はある大きな道場からの要請で
武道の指導に出向くことになったのだ。
それまでは気まぐれでバイトをしていた彼が
初めて試みた「就職」だった。
就職が彼なりの
ブルマへのアプローチなのは感じていたけれど
ブルマにはそれにこたえる気持ちはなかった。

「今日は初日なんで軽く流してきたんだよ。」
「そう」
「こんどの道場は大きいの?」
「うん。
かなり大きい。
オーナーもいい感じの人だった。」
「よかったじゃない。
用心棒もいいけれど
弟子を育てるというのもいいと思うわ。
何も命をかけて闘うだけが武道じゃないんでしょう?」
「・・・そうだな。」

ニコニコと笑顔を浮かべて
ブルマの母親がお皿を並べ出す。

「俺手伝いますよ」

ヤムチャはさっと立ち上がり鍋を運ぶのを手伝い始めた。

「いい匂いだなあ。
お腹へってるんですよ」
「ヤムチャちゃんいっぱい食べてね。」
「私も手伝うわ。」

ブルマが料理をとりわけはじめた。

「ねえ
ブルマさん。」
「どうしたの、ママ」
「ベジータちゃんは今日も帰ってこないのかしら?」

ブルマの心臓の鼓動が大きくなった。
ヤムチャがブルマからさっと目をそらす。

「べ、ベジータ?
ど、どうなんだろう」
「でしょう?」
「そういやずっと見てないわねえ。」
「そうなのよ」
「・・・」

ブルマの母親はテーブルをふきながら話し続けた。

「ぜんぜんおうちでご飯食べてないでしょう?
ママ、寂しくって」

ヤムチャが驚いた風に声を出した。

「え、寂しいですか?」
「ヤムチャちゃんはさみしくないの?」
「はは・・・そういうことを考えたことなかったです。
そういや
長く見てないけど。」
「心配だわ。
ベジータちゃん
おなかへって泣いてるんじゃないかしら。」

ブルマが飲みかけていたお茶を吹きこぼしそうになる。

「ママ、
何言ってんのよ!
そんなわけないじゃない。
こどもじゃあるまいし!」
「あらぁ
そうかしら」

ヤムチャがニコニコとブルマの母親の肩をたたいた。

「ベジータはサイヤ人だから
僕らとは違いますよ。
山の中で恐竜でも捕まえて食べてるんじゃないかな?
悟空も昔そうだったし・・・。
1ヶ月やそこらで何とかなるような男じゃないですよ、
奴は。」
「そうかしら?」
「大丈夫よ、
ママ。
そのうちひょっこりかえってくるわ、
たぶんね。」

それでもブルマの母親は眉をひそめた。

「ベジータちゃん
今まで2週間も家をあけた事ないのよ。
食べ物がなくなれば蹴ってきてたのに。」
「・・・」
「怪我でもしたんじゃないかしら・・・。
だからかえってこられないのかも。」

ブルマは母親のその呟きを
あえて無視した。

だけど指先が冷たくなっていった・・・。

怪我?

ブルマは頭の中で何度もその言葉を繰り返した。

まさか。

地球にはベジータより乱暴な奴はいないもの。
誰がベジータを傷つけられるんだろう。
そんな奴いないわ。

それでも
あの大食漢が一ヶ月も帰ってこないなんて・・・。
そう、あの時は食べものは
持ち出していなかったもの。

「サイヤ人は死の淵に立つほど強くなるんだよ・・・・。」

あれは誰の言葉だったろうか。
クリリンか、
ヤムチャか・・
ベジータ本人だったかもしれない。

傷つくことで力をえるのがサイヤ人なのだと
誰かが言った。

もしかしたら自分で自分を傷つけたんじゃないかしら。
強くなろうとして。
ベジータは乱暴だから
加減が出来なくて
死んじゃったとか?

それはないだろう、
と思いながらもブルマは考える。

いつも
何かを思いつめているような
彼の表情を。
周りの意見に耳を貸すこともなく
自分の信念のみに従う男のことを。

ベジータは取り付かれているのだわ
強くなることだけに。
・・・そのためになら
何をしでかすかわからない。

小さな不安がブルマの頭を駆け巡り始める。

ヤムチャが彼女の表情に気づいていたかは
わからない。
























その夜

ブルマはどうしても眠れなかった。
ベジータが何だというのだ。
心配したところでその気持ちはどこにぶつければいいのか。

そう自分で考えれば考えるほど目がさえた。
いくら寝返りを打ってもだめだった。

時計を見るともう深夜3時を回っている。
せめて少しでも寝ようと思い頭から布団をかぶったものの
やはり眠れそうにない。

ブルマはそっとベッドから出た。
そしてパジャマを脱ぐと
厚めの紺のトレーナーを
頭からすっぽりかぶった。
スカートでなくパンツを選ぶと
まるで男のようないでたちで
ブルマは軽くルージュだけを引き
ベジータの部屋に向かう。

主のいない部屋には
獣のにおいが充満している。
ブルマは鳥肌をタテながら
ベジータの部屋に入る。
部屋の隅には血のついた戦闘服が丸められて転がっている。
ブルマはそれを触ろうとして・・やめた。

ほとんど使われていないベッドの下のボックスには
袖を通したことのない新しい衣類が入っていた。
ブルマの母親が買い揃えたものだ。
ブルマは色とりどりのそれらを適当に大袋に押し込んだ。
続いてキッチンに向かったブルマは
冷蔵庫からあるだけの食料を別の袋に詰め込む。
彼女は真っ暗な車庫に向かう。
シャッターを開けると降るような星空が広がった。

「どこにいくの」

はっとして振り返るとヤムチャがいた。

「・・・」
「ベジータに会いに行くのか。」
ちょっと探しにいくだけよ」
「こんな深夜に?」
「・・・」
「あいつが好きなの?」
「・・・」
「ブルマ。
俺に抱かれたくないのはベジータのせい?」
「それはちがうわ」
「あんなやつのどこがいいの?」
「もうやめて。
心配だから見に行くだけよ。」
「こんな闇夜に?
自分がおかしいと思わないの?」
「それならヤムチャもいっしょにくればいいわ。
急いでるのよ、のりなさいよ。」
「・・嫌だ。
いくな」

ブルマはヤムチャのの顔を見つめた。
白目の部分が青く光って見える彼の姿が
白く浮かび上がって見えた。

突然ヤムチャの腕が伸びて
ブルマの肩を強く押した。
むせ返るアルコールのきつい臭い。
力任せにトレーナーを脱がせようとするヤムチャの手を
ブルマは必死で払いのけようとした。
声は出なかった。
ズボンが半分ほどずり下ろされたけれどブルマは足を開かなかった。
ヤムチャはコンクリートの床にブルマを押し倒し
足の間に自分の両足をねじ込んでブルマの身体を無理やり開いた。
たくし上げたトレーナーがねじれてブルマの首に絡みつき
トレーナーの下からやわらかい乳房がこぼれ出た。

ヤムチャはつぶやいた。

「いれるぞ。」
「やだ、したくない
したくない、もう・・・!」

ブルマをふさごうと覆い被さってきた唇。
ブルマはその顔を思い切り引っかいた。
ばちっと音がして
ブルマは床に肩を打ちつけた。

ヤムチャがブルマのほおを打ったのだった。

「いたっ・・・」
「そう?」
「・・・・」
「俺はどうすればいいの?」
「・・・」
「こんなに
こんなに愛してるのに」
「・・・」
「どうして」
「・・・ごめん」
「・・・」
「私の好きなようにさせて・・・」

ブルマはみだれた服装のまま
荷物をエアカーに投げ込むと
エンジンをかけた。
ブルマは一気に北の方向に向けて発進した。

まだ薄暗い中をブルマは飛んだ。
北の高地に向かって。
涙がどんどん流れ出た。
時計は4時を回っていた。

北でベジータは修行しているはずなのだ。
ベジータが修行した場所は夜目にも見当がつく。
景観が不自然に破壊されているからだ。
崩れた岩山を見つけると彼女は低空飛行で人影を探す。
平地にあいた大穴にも近づいてみる。
大木のなぎ倒された森にもおりてみた。

「ベジータ!
どこ!」

いつしかブルマは叫んでいた。

そして夜が明けたころ。
ブルマは石ころだらけの荒地に倒れている
ひとつの人影を見つけた。
ドスン、と音を立て乱暴にエアカーを着地させると
周りに砂埃が舞い上がった。
バタン、とドアをあけ
ブルマは転がるように走り出す。


ベジータは仰向けに倒れていた。
全身が露でぬれている。
ブルマはベジータの頭部から
赤い血が流れているのに気がついた。
恐る恐る近づいて
そっと頬に手のひらを当ててみた。

「やだ・・つめたい。」

ブルマは思わず
ベジータの上半身を抱き上げた。
ヤムチャよりもはるかに小さい体は
意外にも軽かった。

「ベジータ・・・?」

ベジータは目を閉じたままだ。

「しっかりして、ベジータ・・・」

「ベジータのバカ
バカーー!!!
死んじゃいやだーー!」

































「俺様が死ぬわけないだろう。」

そのとき小さくベジータの声がした。

「え、え、ベジータ?」

ブルマは思わず腕の中のベジータの顔を見た。
黒い瞳がパッチリ開いてブルマを見つめている。

「生きてたの・・・?」
「寝てただけだ。」

ベジータは邪魔臭そうにこたえた。

「だって血が・・・。」
「こんなもの擦り傷だ。」

ブルマは真っ赤になり
あわててベジータの体から腕をはずした。
ベジータは座ったまま戦闘服についた土を払った。

「なにをかんちがいしたんだ、
貴様は。」
「だって、だって・・・身体もぬれたままだし、血が・・」
「・・・」
「ベジータぜんぜん戻ってこないし・・・
心配だったのよ。」
「貴様野宿をしたこともないのか。」
「そんなの普通しないわよ!」
「ふん」

ベジータはそういうと再び目を閉じた。

「俺は眠いんだ。
俺にかまうな。
ほっといてくれ。」

ベジータは自分ですこし動くと頭をブルマの膝の上にずらし
そのままぐうぐうと寝てしまった。

「って、あんた、このまま寝なおすつもりなの?!」

白白と夜が明けて
冷たく細かな霧が高原に立ち込める。
いつしかブルマの全身もびっしょり濡れそぼリ
いくつもの雫が
髪の毛先から滴り落ちた。

はじめてみるベジータの寝顔だった。

まぶたを閉じたその表情はなんだか幼く
眉間のしわも消えていて
少年のように見える。







「バカな女だ・・・。」









「・・なによ
それって寝言なの?」











次第に陽が高く昇り詰め
あたりが暖かくなってきた。
いつの間にかベジータの戦闘服もすっかり乾き
透明な陽光が周囲を照らした。
そして
ベジータは突然目を開けた。

「・・・腹が減った」
「ふふっ、いいわよ。
そうくるとおもったわ。」


シートを広げて食料と衣類を広げる。
ベジータは手当たり次第にてを伸ばし
ぐいぐい口に突っ込んでいく。
それはすさまじい勢いだった。

「はい、水」

2リットルのペットボトルが一気に空になる。

「着替える?」
「そうだな」

ベジータにきざっぱりした衣類をわたすと
彼はブルマがいるのもお構いなしで
さっさと裸になってしまう。

「生地が硬い」

ベジータは文句を言った。

「どうも地球のものは窮屈で肌に合わん。」
「でも似合うわよ」
「貴様も着替えろ」
「私はいいわよ」
「濡れてると気持ちが悪いんだ」
「え?」
「さっきのあれをもうすこしやれ」
「え・・・」
「お前のひざの上に頭を乗せて寝るやつだ」
「・・・」

さすがにベジータの前で服を脱ぐ気にはなれず
ブルマは膝の上にタオルをのせてベジータをみた。
食べ物で頬をふくらませたベジータは
暫く口をもぐもぐさせていたが
タオルを跳ね除けると叉湿ったブルマの膝に頭を乗せた。

「今から寝るからな。
俺にかまうな」
「・・わがままなのね」
「はっ!
俺はサイヤ人の王子だからな。」
「ふーん」
「ブルマ・・」
「なに?」
「・・・・・・・・・・お前の身体は
やわらかいな」
「・・・」








ベジータの顔をみたときは
もう彼はすうすうと寝息を立てていた。

晴れ渡った青空が広がる。
うららかな日差しが気持ちよい。
まるでベジータの母親にでもなった気持ちで
ブルマはベジータの髪をなでてみた。

ベジータは
したいようにしてるだけなんだな・・・・、
食べて、寝て
戦って強くなりたいだけなんだ。
一人でいたいときは飛び出していき
私といたいときは
私とこうしているだけなんだ。



この人は生まれながらの悪人じゃない。
私にはわかる。



ブルマはベジータのまぶたにそっと指を添えた。
彼の黒いまつげに露が落ちていた。


そう。
私は間違ってるのかもしれない。
・・・・でも私は後悔しない。
此処にベジータと

いることを。




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