ムーンライト(5)


fan art by 霜人


これは現実のことなのだろうか??

手袋を通してブルマに伝わるのは
ベジータの心臓の音。
その音はいつしか
ブルマの体内の音と重なって
彼女の体中をめぐっていく。

ブルマはそっと目を伏せた。
ベジータのまっ黒な瞳にうつる自分の姿を
とてもみることができなかったから。

意外でもあった。
ベジータの手はあたたかかった。
そして柔らかな感触が手袋の上からも
よくわかるのだった。

本当にこの手がベジータなの?

ブルマは自分で自分にきいてみた。
いま自分に触れているこの手は
あの恐ろしいマイナスのエネルギーを発射する手ではない。
この手からは冷たさなど微塵も感じられない。

この人は本当にべジータなの?

彼の残虐な行為はこの目で見てきた。
ブルマだって殺されていたかもしれない男だ。
小さな悟飯さえぼろ布のように痛めつけた男だ。

この人が、本当に??

べジータはそれ以上何もしなかった。
ただ一度だけ微かに両手に力をいれて
ブルマの頬の感触を確認したように思えた。
そして目を曇らせると
下を向いた。

言葉はなかった。

そして
ベジータはブルマのほおから手のひらを離すと
さっと背中を向けた。
月明かりで彼の背中が輝いて見えた。

べジータは自ら戦闘服の上着を脱ぎ始めた。
脱いだというより破り捨てているようにも思えた。
それはまだ衣類の脱ぎ着の下手な子供が
いらいらしている様子にも見えた。
やがて
黒っぽい布地の下から
ベジータの鍛えられた体が表れた。
無駄な物の一切ついていない背中だ。
その肌は滑らかで
透き通るように白く
とても男のものとは思えない。
夜風にさらされたベジータの体は光を発しているように見えた。

きれい・・・

その気持に嘘はなかった。

ヤムチャや孫君の体とは全然違う、とも思った。
地球の男の体からは獣のにおいがするけれど
ベジータの体からはその生々しさが感じられなかった。
それは
本当に彫像のような美しさを感じさせたのだ。
触ってみたい。
素直にそう思った。

あ、でも…

もしかしてとっても危ない展開なのかもしれない。

我に帰ったブルマである。
深夜のこんな時間に誰もいない山の中で
ベジータと二人。
べジータとだ。

何があっても文句は言えない。
そして
こんなところで突然肌をさらす
べジータの目的がブルマにはどうしてもわからなかった。
そうして自分はよく考えてみれば
薄いパジャマ一枚なのだ。
その下には小さなパンティしかはいていない。

おろかだったのではないか。

ブルマはこぶしを握った。
そのとき

「おい」

べジータが声を出した。
ぶっきらぼうに。
ベジータはブルマに向かって上着を突きつけた。
ブルマは顔を赤くしてベジータの顔を見た。
心臓が止まりそうだった。

一瞬ベジータに抱かれる自分の姿が目にうかんだのだ。

それはみだらな映像だった。

何でこんなことを??

どうかしていると思った。
そうしてそんなことを考える自分は
なんていやらしいと。
私はそれを期待をしているのか・・・。
そうも思った。
その全てを否定しながらも
否定し切れない自分に
ブルマ本人が驚き
そして自分を嫌悪したのだ。

「・・・」

ブルマが全く動かないものだから
ベジータは一寸眉を曇らせた。
口元をへの字に曲げたままべジータは自分の上着を見た。
そしてばさばさっと上着を広げると
邪魔くさそうにブルマの足元にひいた。

「ここに座れ」

まるで命令口調である。
しかし怒っているようには見えなかった。
そして自分はブルマのいる場所から少し北側にはなれていった。
そこに彼は一人で寝転んだ。

「・・・いい月だ」

べジータは漆黒の夜空を仰ぎ見た。
それは本当に美しい月夜であった。
疲れていたブルマの心をいやすのには十分なほどの・・・。

「なあんだ・・・」
「なにがだ?」

一度は上着の上に腰を下ろしたブルマであった。
しかしブルマは立ち上がると
腰にしいたベジータの上着を手にとった。
そして黙ってベジータの横に行き
その隣の場所に改めて上着を広げた。
ベジータは少し驚いたようだった。
黙ってブルマの顔を見た。

ただそれだけのことだった。

二人は無言で夜空を眺めた。
ブルマはそっとベジータの左手に
自分の右手を添えてみた。
そして彼の手を自分から握ってみた。

ベジータの手が
それに答えたように思った。


東の空があかるくなり始めたころ
ブルマはベジータに抱かれて部屋へと飛んだ。
朝焼けはどこまでも赤く二人を照らし
次第にそれは金色の朝日となって彼らを祝福した。

わずか何時間かの間であった。
何があったわけでもないが
それでもブルマの胸は激しく震えていた。
ブルマの部屋の窓は開いたままで
夜風が机上の書類をばら撒いていた。

ベジータはブルマを部屋に送り届けると
何もいわずに北の方角に飛んでいった。

「どうして私を誘ったの?」

小さくつぶやいたブルマの問いに
ベジータはただ一言、

「さあな」

とだけ答えた。

ベジータの去ったあと
ブルマはしばらく窓の外を眺めていた。
夢のような夜だった。
完全に夜があけて
ブルマはようやく窓を閉める気になったのだった。

今日からはまた元気にやっていこう
それこそが私だわ!
今日は化粧もばっちり決めて明るい色のシャツを着よう。

そう思ったブルマは
さっそくシャワーを浴びようと部屋の中を振り返った。
ブルマはそのとき
はじめて気づいたのだ。
自分の部屋に
ヤムチャがいたことに。

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2003.4.15発表

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