ムーンライト(3)

ネオさんのべジータです。
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ブルマは思わず動きを止めた。
自分の指先が一気に冷たくなるのを感じた。
心臓の音が響く。
自分の頭の中で痛いほどに響く。
ブルマはベジータの顔を見たくないと思った。
でも眼が彼に吸いつけられてしまった。
眼をそらそうとした。
なのに体が凍りついたように動かなかった。
口の中が渇いて
唇が小さく震えた。

ヤムチャもベジータの姿に気づいたようだった。
しかし彼は動きを止めなかった。
むしろさらに腕に力を入れた。
ブルマの身体を持ち上げて
ベジータのいるほうに向けようとした。
ブルマの髪が音を立てて乱れ崩れた。

ブルマはベジータの姿を見てしまった。
逆光を浴びたベジータは光っているように見えた。
彼はたった今修行から帰ってきた、
まさにそのままの姿であった。
小ぶりながら美しい彫像のような体は
ぼろぼろの戦闘服に包まれ
かすかに血のにおいを漂わせていた。
…表情はよく伺えなかった。
ベジータは一瞬ドアのところで歩みを止めた。
その一瞬がブルマにはとても長く感じられた。

ベジータの黒い瞳がブルマを見たように思った。
どこまでも深く
どこまでも黒いベジータの瞳。
闇より暗いベジータの瞳。
そんな瞳がブルマを見たように思った。

それは光のない
どんよりとつかれきった曇った目。

…しかしベジータは
何事にも気づかなかったかのように
その場から去っていった。
それがかえって不自然だった。

ブルマの動悸はいっそう激しくなった。

見られた…こんなところを。

ブルマは自分でも変になるのではないこと思うほど
赤面していた。
体中が音を立ててがたがた震えた。

「ベジータの奴、どうおもったかな?」

ヤムチャがブルマの耳元に唇を触れさせながら
嬉しそうにささやいた。
その冷たい感触にブルマの体は震えた。
いっそう体を密着させるヤムチャ。
明らかにブルマの反応を楽しんでいた。
かすかに震えるブルマの顎を
繰り返し右手でさする。

「あいつだって男なんだから、こんなお前の姿を見たら…」

ヤムチャがさらにブルマをきつく抱きしめた。
そして今度はその唇をブルマの首筋に押し付けた。

「いたっ!」

あまりの痛みに声がもれた。

「うそつけ・・・。」

ヤムチャがブルマの首筋に内出血の後をつけていく。
ひとつ、またひとつと。


「…やめてよ」

ブルマがヤムチャから体を離そうとした。
ヤムチャはわざと少しだけ力を抜いた。
ブルマの動きをまっているようである。

「やめてったら!」

ブルマはさらに両腕を突っ張って
ヤムチャから逃れようとした。

「痛いわ!ひどいじゃない!!」
「ただのキスマークだろう?
なにをおこってるんだ?」
「何でこんなところに酷くつけるのよ!」

ヤムチャは意地悪く笑みを浮かべる。

「ベジータに見られたくないのか?」
「…そんなこと…」

ヤムチャはさらにブルマを捉えようとする。

「ベジータのことなんか関係ないわ!」
「そう?俺はいつもより…」

ブルマはそのヤムチャの首筋のあざのことには触れなかった。
認めれば…自分が惨めだと思った。
ヤムチャの昨夜の行動には気づかないほうが
自分は幸せではないかと思ったのだ。

いくらブルマが元気でも
ヤムチャとの体力の差はどうしようもない。
どんなに口で抵抗しても
押さえつけられればそれでおしまいだ。
髪を乱し息を切らして座り込んだブルマに
ヤムチャはゆっくりと近づく。

そして彼女の体を軽々と抱き上げ、
勝ち誇ったように笑みを浮かべた。





それから何日かがたっていた。
あれからブルマは一度もベジータと顔をあわせなかった。
ブルマ自身が部屋から出なかったからだ。
ヤムチャが何度か部屋を訪れた。
が、ブルマはドアをロックしたままだった。

「あけろよ。」

ヤムチャはそういうものの
ドアが開かないと判るとあっさり引き上げたのだった。

…なによ。
もう今の私には用はないってわけ?

ヤムチャは多分出て行った。
何時もそうだ。
どこかに遊びにいったのだろう。

私がほんの子供だったときに
私はヤムチャとであった。
ヤムチャはかっこいい盗賊だった。
強くて、ハンサムで、優しくて、背が高くって…。
ほかの女の子に見せびらかしたくなる男の子だった。
凄く人気があって…私は彼といるのが本当に嬉しかった。
そしてヤムチャも私が大好きになったんだ。
拳法が強くて
素敵な男の子。

ヤムチャがかわったのだろうか?
それとも私が??

昔のヤムチャは力で私を押さえつけるようなことはしなかった。
私が泣いているのをみて平気な男の子じゃなかった。

どうして?

いくら考えても判らなかった。
自分がどうしたいのか。
これからどうすればいいのか。

私たちはいつまでもあのころの二人じゃないんだ。
いつまでも子供のままじゃないんだ…。

だからといって
ブルマがヤムチャと分かれる理由がない。
今まで共に暮らしてきた生活を、
積み上げてきた思い出を捨てることなんかできない。

楽しかったのだ。
幸せだったんだ。

…私はヤムチャから自由になりたいのだろうか?
本当に?
それさえはっきり判らないのだ。

そんな状態が続いていた。
答えの出ない問いに自問自答を繰り返し
ブルマは疲れ果てていた。

その夜。

それは月のきれいな夜だった。
漆黒の夜空に白く輝く満月が輝いていた。
月の光が降るように溢れ
ダイヤモンドのような星屑が満天に輝いていた。
ブルマは自分の部屋から月を見ていた。

月の光にはふしぎな力がある。
自分の体のなかの何かが目覚めるようなそんな感じがする。

ブルマは自然に窓を開けた。
夜風がブルマの肌を刺激した。
窓から身を乗り出し新鮮な空気をすう。

飛んでいきたい。
どこか遠くへ。
こんな自分が
もういやだ…。

そのとき。

「おい」

どこかから声が聞こえた。
ブルマは息を止めた。

「そんなところにいないで、出て来い。」

声の主はベジータだった。

 
2002年6月28日にDB文庫にアップされた物を加筆しました。
2003年3月22日イラストを差し替え、加筆修正をいたしました。

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