1.DEFEAT…完全な敗北
by etenraku
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雲ひとつない光るような青空の中に
ひとつの人影があった。
それは、ふらふらと漂うように
おぼつかない様子で飛んでいた。

トランクスだ。
彼の全身は真っ赤に染まっている。
彼の意識は朦朧としていた。

このまま気を失ったら二度と目覚めないかもしれない。

トランクスは自分にそう言い聞かせる。
そして自分の痛みを感じることに集中した。
開いた傷口に自分の手のひらをぐいっと差込み
内部を引きちぎるようにつかむ。
激痛が彼を襲う。
声をあげそうになり歯を食いしばる。
しかし、こうでもしなければ意識を失ってしまうだろう。
そして多分二度とは目覚めない。

死にたくない。
死にたくないんだ。
俺はまだ生きなければ。
母さんの下に帰らなければ…!

トランクスは母親の顔を思い浮かべる。
いつも明るい母親の顔を。
そして
人造人間の下に向かう自分を引きとめようとした、
母親の悲しい瞳を。

トランクスには自信があったのだ。
彼だって修行を積んだのだ。
そして今度こそ、と、思い人造人間の元に向かったのだ。

「よう。
久しぶりだな、トランクス。
まだ生きていたんだな。」

まっすぐな黒髪を揺らして薄ら笑いを浮かべる17号。
少年の姿をした人造人間は青い瞳に白い肌を持っていた。
しかしその姿は真っ赤な返り血を浴びて
むせ返るような臭いにつつまれていた。

「あんた達ほど無駄な存在はいないだろうね。
負けるのがわかってるのに抵抗するんだから。」

傍らに立つ18号。
絹のような細い金色の髪はきらきらと風になびく。
美しい女性の姿をしてはいるがその赤い唇は
なんとも残酷な笑みを浮かべる。

「ふっ、ベジータといい、悟飯といい…
サイヤ人というのはよっぽど頭が悪いらしい。」
「黙れっ!」
「おや。
ちょっとは強くなったのか?」
「今日こそおまえ達をやっつけてやる!!」

人造人間達は顔を見合わせた。

「がきだねえ・・・」
「うるさいっ!!」

トランクスは拳を握り気を高めた。
エメラルドグリーンの瞳が光る。
超化が始まったのだ。
髪はクリスタルのように輝きだし
音を立てて天に向かって逆立ち始める。
全身を光につつまれたトランクスは
人造人間たちをにらみつける。

「ばかの一つ覚えだ。
どうしようもない。」
「みんなの敵だ!!」

猛然とダッシュするトランクス。
17号に狙いを定める。

「はっ!!」

彼は全身を震わせて最大のパワーで白い気弾を発射した。

「俺はこの日を待っていたんだ!!!!」

エネルギーの固まりはうなりを上げながら
まっすぐ17号に向かっていく。
しかし。
17号はその気弾を右腕一本であっさり払いのけてしまった。

「なんだって…!」

思わず動きの止まるトランクス。
口の中がからからに渇く。

「俺の最高のパワーだったはず・・・。」

信じたくない光景であった。
そんなトランクスを見つめる17号。
17号はにやり、と笑いを浮かべた。


「なんだ…こんなもんか。
この程度で俺たちを殺すつもりでいたのか?
…これならおまえの父親の方が強かったかもな。」
「でもたいしたことなかったけどね。」

18号が声をあげて笑った。

「よく似た親子だよ。
でかいのは口だけさ。」
「教えてやろうか、トランクス。
俺は…ベジータをこうして殺したんだよ!!」

17号はすばやくトランクスの眼前に移動した。
彼はトランクスの胸と腹に両手のひらを接触させる。
17号が何をしようとしているのか
トランクスにはすぐわかった。
なのに。
トランクスは、
全く動けなかった。
最大の力で発した気弾をあっさりかわされたトランクス。
自信を喪失したトランクスは動けなかったのだ。

次の瞬間。
トランクスは強い光につつまれた。
全身を激しい衝撃が襲った。
体の一部が飛んだ、と感じた。
押しつぶされそうになる。
激しい風圧に足をとられる。
何度も全身を打ち付けられる。
目の前が暗くなり
一瞬意識が消えうせた。

最後にトランクスは高層ビルの壁にたたきつけられた。
ガラスが割れ
大きな音とともにきらきらと光る大小の破片が
トランクスとともに落下した。
一瞬にして現れた瓦礫の山。
目もあけられないほどの土埃。
しばらくするとその瓦礫が少しだけ、動いた。
…トランクスはまだ生きていた。

「失敗じゃないか!17号!」

18号が笑った。

「あんた、どうしたんだい!」
「違うさ。
俺は楽しみたいんだよ、
このゲームを。
どのくらいこいつが生きているか
試してみたいんだよ。」
「ふーん…?
どうでもいいけど趣味が悪いよ…」
「でも18号だって遊ぶだろう?」
「まあね」

トランクスは瓦礫を押しのけて立ち上がろうとした。
足がもつれて何度も倒れる。
そう。
あの一発だけでトランクスは内臓破裂を起したのだ。
彼の身体は大量の内部出血のせいで
ショック症状を起し始めていた。
全身がぶるぶる振るえ
唇は紫に変色していた。

既に超化はとけていた。

「退屈だったからちょうどいいや。」

18号の微笑だけがぼんやり見えた。



そのあとどうやって人造人間たちから逃れてきたのか
全く彼には記憶が残っていなかった。
気がつけばトランクスは
西の都の外れまで飛んで戻っていたのである。
傷だらけの全身を鈍痛が襲い、頭が割れるようにいたむ。
額から冷たい脂汗が滴り落ちる。
肋骨が2.3本折れているのは間違いなかった。
息をしようとすると目の前が一瞬暗くなる。

トランクスは徐徐に高度を保てなくなった。
意識を失いそうになっては降下しまたふらふらと上昇する。
自分の声が頭に響く。

…勝てない、
人造人間に勝てない。
超サイヤ人になっても!

自分の弱さに腹がたった。
いつまでたっても強くならない自分自身に。
母親が止めるのも聞かず飛び出した挙句が
…このざまである。

今度は死ぬのかもしれなかった。
どんどん体温が失われていくのが自分でも判った。
目を見開こうとしても瞼が重くて開かない。
そのうちどんどん自分の体が重くなり始めた。

しっかりしろ、トランクス君。

悟飯の声が聞こえた気がした。

死んじゃいけない。
世界を守るのは君なんだよ。

ふと感じる悟飯の暖かい気。
トランクスの背中をふんわりとつつむ。
悟飯の腕の感触がトランクスを抱き寄せる。
幼かったあの日のように
トランクスは悟飯の広い胸に迎え入れられようとする。
かすかに浮かぶ一筋の明かり。

トランクスの表情が苦痛からかすかに開放され
口元が少し緩んだ。

「…悟飯さん。」

トランクスはそっと両手を青空に向かって差し出した。
真っ赤な血がぼとぼとと
彼の腹からあふれて散った。

「会いたかった!」

そして
彼ははるか上空から地に向かって落下し始めたのであった。
トランクスは薄れていく意識の中で繰り返した。

母さん、ごめんなさい、と。


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14 12 2002

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