11.Gohan...忘れられない

zirou
セルとのこの世界での戦いが終わって
半月ほどたつと
トランクスは毎晩夢を見るようになった。

超化した美しい戦士の夢である。

いつか見た
山吹色の道着。
片袖が風に揺れる。

それは
忘れもしない師、
悟飯であった。

金糸のような髪を風になびかせ
隻腕で暗闇にたたずむ悟飯の姿は
青く輝き
とても美しい。
その彼の透き通った瞳が
トランクスをじっと見つめている。
悟飯は残された片腕を真っ赤に染めたまま
ガラスのような碧眼で
トランクスにゆっくり微笑みかける。

いつもだ。

その悟飯は
トランクスの記憶にあるどの悟飯よりも
切なくさびしい顔をしているのであった。

ああそうか。

この表情はあのときの悟飯さんなんだ。
俺を置いて
一人逝ってしまった
あのときの。
最後の時の姿なんだ。

悟飯は夢の中で
何時もトランクスに
何かを問い掛ける。
それがいつもよく聞き取れないのだ。
だから
トランクスは夢の中で聞き返すのだ。
しかし
それでもよく聞き取れない。

何なの?
何のことをいっているの
悟飯さん?

そのとき。
悟飯は黙って
ただトランクスを見つめるのだ。
とても寂しげに。

「悟飯さん
いっちゃいやだーーーーーーー!!」

夢はそこでいつも終わる。
トランクスは
いつも
泣き出しそうになる。

どうして
どうして何も答えてくれないんですか!
悟飯さん。
どうして…?

一人残されるトランクス。
ただ腹のそこからまだ突き上げてくる
怪しい衝動だけが残る。
自分が何かに
自分の意思と無関係に
突き動かされそうになる。
その黒い「もの」に耐え切れなくて
トランクスは一人北の方向に飛び立っていく。
そう。
今日も。






岩山ばかり広がる高地。
不自然に砕かれた大きな岩が
あちこちに散乱している。
ここは北の荒れ果てた高地である。

大小の岩石のかけら。
それはベジータが、
悟空がこの世に生きていた証。
そして悟飯とトランクスが
ともに生きてきた証だ。
ここはサイヤ人の血を引くものが過ごした場所。
彼らはここで拳を交え血を流し
心を通わせたのであった。

その地に
今は最後の一人のトランクスが時を過ごす。
もう誰もいないこの場所で。

地面を見つめるトランクス。
トランクスはそのわずかな土の上に寝転がる。
草さえはえない
いつもと同じ場所に寝転がる。
そこはいつも彼と悟飯が過ごした場所なのだ。

悟飯が
トランクスの師が
いなくなってもう何年もたつのに
この位置この場所に
今でも悟飯の暖かい気が感じられるように思う。

…悟飯さん。

トランクスは地面に頬を擦り付ける。
少しでも悟飯の香りを求めたくて
何度も擦り付ける。
肩が振るえ
指先が堅い地面に食い込んでいく。

寂しいのではない。
悲しいのでもない。
そんな気持はもう忘れてしまった。

物心ついたときから
破壊と殺戮の世界で生きてきた彼である。
トランクスは大声で笑うことも
泣くこともなく育ってきた。
手のかからないいい子だったのか
それとも恐怖に慣れていたからか。
頼る相手のいない母親を
子どもがてらに
守ろうと考えたからなのか。

それは彼にも理解できない。

そんな彼が唯一心を開いたのが
同じ様にサイヤ人を父に持つ悟飯だったのだ。

「違うよトランクス君。
もっと、こう、怒るんだ。
超サイヤ人は
心のそこからの怒りが
引き金になって生まれるんだよ。」

なかなか超化できないトランクスに
悟飯はいつもそういった。

「怒ってご覧。」

そういわれてトランクスは首をかしげる。

「だって悟飯さん。
何を怒ればいいのか…」
「なにをって、…」

悟飯は戸惑うような表情になる。

「人造人間が罪もない人を傷つけているんだよ。」

トランクスは言われたようにイメージをしてみる。
然しなかなか超サイヤ人の道は開けないのであった。

そうか。

悟飯は一人納得する。

自分は平和な時代を知っている。
だからこそ
今の悲惨な状態に
憤りを感じることが出来るのだ。

だが、トランクスは違う。
彼にとって今の凄惨な世界はあたりまえの景色なのだ。

ベジータさんがそうだった。

怒りによって目覚める戦士
超サイヤ人。
ベジータさんは最後までなれなかった。
ベジータさんが怒りを感じていないはずはなかったのに。

悟飯も悟空も平和な暮らしを経験している。
人として当たり前の生活を経験している。
家族と暮らす
ただそれだけの
なんでもない毎日があったことを知っている。
そこに何らかのヒントがあると思う。

悲惨なことが
悲惨と感じられない。
そんなトランクスが
悟飯には哀れに思う。
悟飯はトランクスの足元に目を落とした。

「だめです、悟飯さん。」

トランクスは汗まみれの状態で息を切らしていた。
全身から汗が滴り落ち
足元がふらついている。

「すこしやすもうか。」

悟飯はトランクスにそう声をかける。

「はいっ!」

嬉しそうに微笑むトランクス。
そして悟飯は
固い土の上にごろりと寝そべった。

青い空が頭上に広がる。
降り注ぐ陽光。
山吹色の道着が鮮やかに日差しを浴びていた。
トランクスはまぶしそうに目を細めた。

悟飯はトランクスに微笑みかけると
すっと手を差し伸べた。

「おいで。」

トランクスは師の手をとる。
暖かいがごつく大きい手。
勉強が好きで学者になりたいといっていた悟飯の手は
意外に硬かったのである。
それは純粋なサイヤ人の戦士
悟空に似たものらしかった。
残されたその隻腕がトランクスを抱きしめる。
優しく、それでいてしっかりと。
ブルマの前ではわがままも言わない
いい息子のはずのトランクス。
そのトランクスは
悟飯の前では幼子のように胸に甘える。
師の熱い胸板に頬をすりつけ
体温につつまれて
目を閉じる。
聞こえる心臓の音がトランクスの鼓動と一体化し
トランクスの気持を和らげる。
孤高の戦士悟飯。
父親を無くし
同志を全て失った彼。
彼もトランクスを本当にかわいがっていた。
あるときは兄のように
また父親のように。

「君は戦士にはむいていないのかもしれないね。」

時々悟飯はそう言った。
悟飯の胸の中でトランクスはその声を聞く。
悟飯の香りがトランクスを和ませる。
その体温に体の疲れも癒されていく。

「本当なら
そのほうがいいのかもしれない。
・・・こんな世界でなければ。」

誰に言うでもなく悟飯はつぶやいた。

「あ、でも
ベジータさんがゆるしてくれないか。
誇り高いサイヤ人の王子だもの。」

悟飯は笑った。
トランクスも小さく笑う。

「ねえ、
悟飯さん。」
「なんだい?」
「悟飯さんは
何時超サイヤ人になったの?」

師の心臓の音を聞きながらトランクスがたずねる。
何気なく聞いたつもりだった。
しかし。
一瞬悟飯は言葉を飲み込んだ。

悟飯は少し間をおいて、
それでも静かに答えた。

「僕は…」

悟飯の手がトランクスの髪をなでる。

「ピッコロさんを
殺してしまったときさ。」

聞かなければよかった。
そう思ったけれど
もうどうしようもなかった。
あわててトランクスは
師の手を握りなおした。
急に自分の心臓の音が
大きく聞こえる。
悟飯の手のひらにも
うっすら汗がにじんでいた。

「僕はね、
ピッコロさんを2度も死なせているんだ。
僕に力がなかったために。」

悟飯は淡々と語っているようであったが
その手は震えていた。
こういう反応は思いもよらなかった。
…トランクスはどうしたらいいのかわからなくて
ただ師の身体を抱きしめた。
力いっぱい。
自分の血流の音がどくどくと
頭の中に響き渡る。

然し悟飯は淡々と続けた。

「僕がもっと強くて
自分の身さえ守る事が出来ていたら…」

トランクスの頭を抱きかかえる悟飯。
そっと彼の髪をなでる。
指先がトランクスのおでこに触れる。

「ピッコロさんは今も生きていたと思う。」

悟飯は言葉を続けた。
トランクスを抱きしめながら。

「僕はサイヤ人として目覚めたんだ、
そのときに。
自分の弱さに怒りを覚えて。
そしてサイヤ人として生きることに
決めたんだよ、
それからね。」
「だから
…家に帰らないの?」

トランクスは恐る恐る聞いてみた。
一度聞きたかったことである。
そのころの悟飯はパオズ山には帰っていなかった。
この荒地に暮らしていたのだ。
たった一人で。

「うん。

僕のお母さんは「超サイヤ人」が嫌いなんだ。
超化した僕を見ると
必ず泣いちゃうと思う。
仕方ないんだ。
…僕は闘うことに決めたし。
戦う姿を
お母さんにだけは見せたくないんだ。」

悟飯はちいさなため息をついた。

「…でももしこの戦いが終われば…」
「終わったら?」

トランクスは恐る恐る顔をあげて悟飯の顔を見る。

「家に戻って勉強したい。
君にも戦闘じゃなくて勉強を教えたい。」

悟飯はトランクスをしっかり抱きかかえて
いった。

「もう二度と戦わないよ。」

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