![]() まちきれなくて文庫版 |
| 「なんだってー!」 チチが思わずテーブルに手をついた。 お茶がひっくり返って山盛りの肉饅頭がゆれた。 悟飯は慌てて布巾を手にとりテーブルを拭く。 悟天はニヤニヤ笑っていた。 「おめえ、それほんとけ?」 悟飯は上目遣いで母親を見ると頬を赤くした。 「そうですよ、お母さん・・・ だけど今すぐと言うわけではありません。」 「だどもだども・・・」 悟天が口からつばを飛ばして口をはさんだ。 「お母さん、兄ちゃんとビーデルさんが結婚したらいいなていってたじゃない?」 「子供が口はさむんじゃねえ!」 「・・・子供じゃないもん」 頬を膨らませた悟天は母親をにらみこんだ。 「これは大人の話だ。 それで、おめえたち、何でそういうことになっただか?」 「なんでって・・・」 「いきなり・・そんな・・・結婚するだなんて・・・」 既に空になっているどんぶりを抱えていた悟空。 チチの手付かずのどんぶりにも手を伸ばす。 ぴしっ! チチが悟空の手をはたいた。 「いてぇよぉ…」 「悟空さ!! おめえくってばかりじゃないか? 悟飯ちゃんの話をちゃんと聞いてるべ?」 「聞いてるよぉ…」 超3まで極めた天下無敵の悟空にも 勝てない相手がここにいたようである。 悟空はしぶしぶチチのどんぶりから手を離した。 「わりぃ、悟飯。 これくっていいか?」 「ああ、いいですよ、お父さん。 どうぞ食べてください。」 悟飯はにっこり笑って自分の目の前の食べ物を 父親の前に寄せるのであった。 「サンキュー、悟飯!」 「はい。」 チチは頭を抱え込んだ。 「これじゃどっちが親だかわかんないべ…」 「お母さん、お父さんは久しぶりに生き返ったんですから…」 「ちょっとも成長してないべ」 「おら死んでたからなあ」 そう言って悟空はからからと笑った。 「で…悟飯、結婚するったって、おめえしってんのか?」 「な…なにをですか、おとうさん!!」 とつぜん話題をふられて悟飯は真っ赤になった。 「ご、悟天がいるんですよっ! 何を言い出すのかと思えば…」 「ご、悟空さ!」 固まるチチ。 みんなの顔を見比べる悟天。 「結婚ってさあ、食いもんじゃあねえんだぞ?」 悟飯は自分の部屋に戻った。 デスクに向かって本を広げた。 しかし頭にはいりそうにもなかった。 さっきの父母の会話を思い出してみる。 考えてみれば自分は今までどのくらい家族がそろった食卓で ああいう風に食事をしたのだろう? ピッコロさんと修行した以前のことはもう覚えていない。 お父さんが始めて死んだときの記憶さえも確かでない。 ナメック星で超サイヤ人になったお父さんをみたものの お父さんは地球に帰ってこなかった。 ヤードラットから戻ってきてあのセルゲームまでの間 ほんとうに その間だけだったのだ。 セルゲームのことを 思い出すのは今でも辛い。 悟飯は自分で記憶の糸をきろうとした。 悟飯は立ち上がり 明かりを消した。 目を閉じて 床に直接横たわる。 思い出そうとする 指先の感触を 腕の中の温かさを あの 甘い香りを。 まるで彼女が 自分の上にのっているかのように その重さを思い出そうとする。 彼女の息遣いが 耳に聞こえるような気がする。 悟飯は小さくその名を呼んだ。 「セルゲームのときの 金髪の子供は悟飯君だったのね?」 彼女はそう聞いた。 「セルを倒したのもあなただったのね?」 そういわれて悟飯は静かにうなづいた。 もう隠しても仕方がないと思った。 しかし これで終わりかもとも思った。 あの時の自分は 本当の僕じゃない。 あれは 闘うことに操られたただの兵士だ。 僕は 本当に セルを コロシタイ と思ったんだ。 そして本当に コロシタンダ。 このてで。 セル戦が終わっても 僕には何一つ残らなかったんだ。 僕は ずっと そのことを 誰にもいえないで 一人で 生きてきた。 自分の手のひらだけを見つめて 生きてきた。 ビーデルさんの頭の上には 底抜けに蒼い青空が広がっていた。 雲ひとつない。 そしてどこからか 若葉の香りがしていた。 それが 彼女のにおいだったんだ。 僕は ビーデルさんの横から立ち上がろうとした。 つらくて もう彼女の顔が見られなかった。 自分の弱さが 彼女の前ではこんなに簡単にでてしまって 僕は もうどうしたらいいのかわからなくって とにかく ここにはいられないと思ったんだ。 「私たちを助けてくれたのは悟飯君よ」 ビーデルさんがそう言って 僕の手をとってくれた。 「セル戦のときも 今度のことも」 僕は 芝生の上に 押し倒されたようになった。 目の前に 彼女の大きな瞳があった。 「みんな 悟飯君は死んじゃったと言った…。 でも 私にはわかっていたの 悟飯君が生きているって。」 彼女の体が 僕の上にある。 彼女の体温が 僕に溶け込んで 彼女の髪が 僕に巻きつくようで 僕は どうしたらいいのかわからなかった。 彼女は僕の上で涙をながした。 小さい肩が 細かく震えて 水のしずくが 僕の胸に落ちてはながれた。 「悟飯君が…」 僕はやっとの思いで 彼女の背中に両腕を回して そっと彼女を抱いてみた。 「本当に生きていてくれて…」 僕は眼を閉じた。 体に触れる彼女のすべてに神経を集中させた。 「約束を守れてよかった。」 僕は小さくつぶやいた。 「こうして 君とまたあえた。」 僕の唇に 冷たい感触。 それは唇から 頬へ うなじへと。 僕は彼女を抱いたまま 体の位置を入れ替える 彼女が下に 僕が上に そうして僕も言ったんだ… 「これからは…」 「え?」 「君とずっと…こうしていたい。」 夜明けが待ちきれなくて 悟飯は彼女の家へと空をとんだ。 冷たい風が通り過ぎていく。 彼女はどんな顔をするだろう? 僕を待っててくれてるだろうか? 辛いこともあった。 悲しいこともあった。 でもすんだことはもう忘れたい。 振り向くのはもう止めよう。 僕は 彼女と 生きていく。 |

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